魔王城の最上階に辿り着いたとき、
誰もが疲弊していた。
勇者、戦士、僧侶、魔法使い。
長い旅の果てに、ようやくここまで来た。
玉座の前で、魔王は静かに立っていた。
剣を抜こうとした瞬間、背後で金属音が鳴った。
倒れたのは、魔法使いだった。
誰も状況を理解できなかった。
剣を握っていたのは、戦士だった。
裏切りは、突然ではなかった
戦士は言った。
「もう十分だ。これ以上、戦う理由がない」
彼は魔王を見ず、勇者を見ていた。
その目に迷いはなかった。
旅の途中、何度も兆候はあった。
撤退を勧める言葉。
無駄な戦闘を避ける判断。
勇者の理想を「現実的ではない」と切り捨てる態度。
それらはすべて、
“慎重な仲間”として受け取られていた。
魔王は、何も言わなかった
魔王は動かなかった。
剣も、呪文も使わない。
戦士が裏切った理由を、
魔王はすでに知っていたからだ。
「人間は疲れる」
それが戦士の答えだった。
戦えば戦うほど、
誰かが傷つき、
誰かが死ぬ。
魔王を倒しても、
新たな敵が生まれるだけだと、
彼は理解してしまった。
勇者は選択を迫られた
裏切り者を討つか。
魔王を倒すか。
それとも、すべてを終わらせるか。
勇者は剣を下ろした。
「ここまで来て、
誰かを犠牲にして終わる旅なら、
最初から間違っていた」
その言葉に、
僧侶は泣き、
魔法使いは目を閉じた。
結末は、語られなかった
その後、何が起きたのかを
正確に知る者はいない。
魔王城は崩れなかった。
世界も滅びなかった。
勇者が英雄として戻ることもなかった。
ただ、戦争は終わった。
魔王は姿を消し、
勇者たちは武器を捨てた。
戦士は裁かれなかった。
裏切りは、
「一つの選択」として
誰の心にも残っただけだった。
語り部は、こう締めくくる
英雄譚では、
裏切り者は悪として描かれる。
だが現実では、
裏切りは“限界の証明”でもある。
仲間の一人が裏切っていた場合、
世界は救われなかったかもしれない。
だが、
誰も英雄にならず、
誰も怪物にならない結末だけが、
静かに残った。
それが、この世界線のエンディングだった。


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