ドラゴンクエストを思い浮かべたとき、多くの人の頭に浮かぶものの一つが「勇者」ではないだろうか。
剣を持ち、仲間と旅をし、モンスターと戦う。
しかしドラクエの勇者が長く記憶に残ってきた理由は、単に「強い主人公だから」ではないと思う。
鳥山明さんが描いたキャラクターには、シルエットを見ただけでも冒険へ出発したくなるような独特の力があった。
では現代のAIに、
「新しいRPGの勇者を設計してください」
と依頼したら、どんな主人公を作るのだろう。
今回は、鳥山明さんがビジュアル面で形作ったドラクエの勇者像と、AIによるキャラクター設計を比較しながら、人間とAIでは何が違うのかを考えてみたい。
※本記事は既存作品のキャラクターを再現する目的ではなく、ゲームデザインについて考える独自考察です。
勇者は「最強の人」ではない
勇者という言葉だけをAIに与えれば、
強い剣。
豪華な鎧。
鍛え上げられた肉体。
特別な魔法。
圧倒的な必殺技。
こうした要素を組み合わせることは比較的簡単だ。
だが、ドラクエに登場してきた主人公たちを考えると、必ずしも最初から圧倒的な英雄として描かれているわけではない。
最初は弱い。
装備も十分ではない。
弱いモンスターとの戦いでも経験を積み、少しずつ成長していく。
ここがRPGでは重要だ。
完成された英雄を操作するのではなく、プレイヤー自身が冒険を通じて英雄にしていく。
勇者のデザインには、この成長の余白が必要になる。
鳥山明さんのキャラクターは一目で分かりやすい
鳥山明さんが手がけたキャラクターデザインの大きな魅力として、私は「分かりやすさ」があると思う。
主人公を見る。
戦士を見る。
魔法使いを見る。
モンスターを見る。
ゲームを詳しく知らなくても、ある程度そのキャラクターの役割を想像できる。
しかも、ただ分かりやすいだけではない。
髪形、服装、体格、表情、小物などによって個性が生まれている。
これはゲームでは非常に大きい。
RPGには多くの人物やモンスターが登場する。
全員について長い説明を読まなければ違いが分からないのでは、プレイヤーは疲れてしまう。
見ただけで、
「この人は強そうだ」
「この人は素早そうだ」
「この人は魔法を使いそうだ」
と感じられること自体が、ゲームUIの一部とも言える。
AIなら大量の勇者を作れる
AIの強みは別のところにある。
AIなら条件を細かく指定して、多数のキャラクター案を短時間で比較できる。
たとえば、
10代の主人公。
剣を使う。
魔法も少し使える。
明るい性格。
防御より攻撃が得意。
青を基調とした服。
成長すると装備が変化する。
こうした条件から大量の候補を作り、さらにプレイヤーの反応データを分析することも考えられる。
「どのシルエットが覚えられやすいか」
「どの装備が主人公らしく見えるか」
「どの表情に好感を持つ人が多いか」
といった評価を数値化できる可能性がある。
これは人間だけで制作していた時代には難しかった方法だ。
AIは「平均的に好かれる勇者」を作りやすい
ただし、ここにAI設計の弱点もある。
大量のデータから好まれる要素を抽出すると、
格好いい髪形。
格好いい剣。
格好いい鎧。
整った顔。
勇敢そうな表情。
というように、「多くの人から拒否されにくい主人公」に近づいていく可能性がある。
完成度は高い。
しかし、どこかで見たようなキャラクターになる危険もある。
人間のクリエイターは、ときに合理的ではないものを入れる。
少し変わった髪形。
妙な服装。
意外な体格。
コミカルな表情。
普通なら避けそうな組み合わせ。
それが結果として強烈な個性になることがある。
AIがデータ上の最適解を求めすぎると、この「少し変」が消えてしまうかもしれない。
スライムから考える人間の発想
この違いを考えるうえで、ドラクエのスライムは興味深い存在だ。
RPGの敵と聞けば、恐ろしい怪物を想像することもできる。
ところがドラクエのスライムは、丸みのある親しみやすい姿で表現された。
弱い敵なのに覚えている。
むしろシリーズを象徴する存在の一つになっている。
ここには、
強そうにすることと、魅力的にすることは同じではない
という重要なヒントがある。
勇者についても同じだ。
装飾を増やせば主人公らしくなるとは限らない。
剣を巨大化すれば魅力が増すとも限らない。
シンプルだからこそ記憶に残る場合もある。
AIなら勇者の性能まで同時設計できる
一方、AIには人間のデザイナーとは違った可能性がある。
外見とゲーム性能を同時に設計することだ。
たとえば勇者が少し軽い鎧を着ているなら、
素早さ+10%。
防御力-5%。
回避率+8%。
といった性能を設定する。
大きな盾を装備すれば、防御力は上がるが行動速度が落ちる。
魔法用の装飾を装備するとMPが増える。
つまり見た目そのものをゲームシステムと接続する。
さらにAIなら何万回もの戦闘シミュレーションを行い、その勇者が強すぎないか確認できる。
キャラクターデザインとゲームバランスを別々に考えるのではなく、一つのシステムとして調整できるわけだ。
プレイヤーごとに違う勇者も作れる
AI時代なら、もう一段先も考えられる。
全プレイヤーが同じ勇者を操作する必要がなくなるかもしれない。
攻撃を好むプレイヤーなら、少しずつ戦士型へ成長する。
魔法を多用するなら、魔法剣士型になる。
仲間を守る行動が多ければ、防御や回復能力が伸びる。
さらに外見までプレイスタイルによって変化する。
100時間遊んだころには、
「自分が育てた勇者」
が完成する。
AIはプレイヤーの行動履歴を分析することで、キャラクターそのものを継続的に変化させられる。
これは従来型RPGとは違う面白さになりそうだ。
しかし全員違うことにも弱点がある
ここで逆の問題が発生する。
全員の勇者が違ったら、「あの勇者」という共通の思い出を持ちにくくなる。
ドラクエのような長寿シリーズでは、キャラクターを見ただけで、
「あの冒険を思い出す」
という力がある。
固定されたデザインだからこそ、何十年後にも同じ主人公について語れる。
AIがすべてを個人最適化すると、この共有体験が弱くなる可能性がある。
これはAI時代のゲームデザインで意外に重要な問題ではないだろうか。
人間は「象徴」を作り、AIは「最適化」する
両者を比較すると、得意分野が違って見える。
人間のクリエイターは、
「このキャラクターを世に出したい」
という意思から出発できる。
一方AIは、大量の候補を比較し、
「この条件なら、このデザインが有効」
と最適化することを得意とする。
もちろん現実には、それほど単純に分けられるものではない。
それでもキャラクター制作において、
人間=方向を決める
AI=可能性を広げて検証する
という組み合わせは強そうだ。
AIに鳥山明さんの代わりをさせる必要はない
AI時代になると、
「AIが有名クリエイターを超えるのか」
という話になりやすい。
しかし私は、そこだけを競争にする必要はないと思う。
鳥山明さんが作り上げた表現をAIにそのまま再現させるのではなく、人間のクリエイターが新しい世界観を考え、その検証やバリエーション作成をAIが支援する。
そのほうが面白い。
人間が、
「今までにない勇者を作りたい」
と方向を示す。
AIが100種類のゲームシステムを試す。
人間がその中から違和感のある案を選び、さらに崩す。
AIがバランスを検証する。
この往復によって、人間だけでもAIだけでも生まれなかったキャラクターが生まれる可能性がある。
AI時代の勇者に必要なのは「不完全さ」かもしれない
もし私がAIを使って新しい勇者を設計するなら、あえて完璧にはしない。
最初から強くしない。
すべての魔法を使えるようにしない。
欠点を作る。
少し変わった部分も残す。
そしてプレイヤーが冒険することで完成していくキャラクターにする。
AIは最適解を探すことができる。
しかしRPGで面白いのは、必ずしも最適な存在ではない。
弱かった主人公が強くなる。
頼りなかった仲間が最後の戦いで活躍する。
使いにくかった技が意外な敵に効く。
そんな「予定通りではない瞬間」が記憶に残る。
まとめ:人間とAIの共作が次の勇者を生む
鳥山明さんがビジュアル面で形にしたドラクエの勇者たちは、単に強そうなキャラクターではなかった。
親しみやすさ。
分かりやすさ。
冒険への期待。
そしてプレイヤーが成長させられる余白。
そうした要素が組み合わされていたからこそ、多くの人の記憶に残ったのだと思う。
AIなら大量のデザイン候補を生成し、戦闘データを分析し、プレイヤーごとに能力を最適化することもできるだろう。
それでも、AIが導き出した「最も好まれる勇者」が、そのまま最も記憶に残る勇者になるとは限らない。
少し不思議。
少し不完全。
でも、なぜか好きになる。
そんなキャラクターを生み出すには、人間の感覚がまだ重要なのではないだろうか。
未来のRPGで最高の勇者を作るのは、人間かAIか。
答えは、そのどちらかではないのかもしれない。
人間が新しい英雄像を想像し、AIがその可能性を広げる。
その組み合わせから、私たちがまだ見たことのない「次の勇者」が生まれるのだと思う。


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